生徒の脳タイプ、把握しましょう。

生徒の脳タイプ、把握しましょう。

※これはFacebookの「English Teachers Association of Japan」Closed Group に2015年春に書きこまれた会話です。


 

ひろしさん2

鈴木裕

The Benefits of a Bilingual Brain by Mia Nacamulli

Compound bilingual、Coordinate bilingual、Subordinate bilingual。それぞれが違う構造なんですよね。もちろんそれぞれの中間もあると思います。

Compound bilingual や Coordinate bilingual の人が、これから第二言語を習得しようとする大人に対して、自分が進んだ道と同じ道を進ませようとしても効かないと思います。大人は、できあがった脳の機能を活用しながら第二言語をおぼえていきます。パズルを組み合わせるような幾何学的な覚え方がじょうずな人もいれば、理屈で覚えるのがじょうずな人もいるし、訳語であたまをクルクルと回転させるのが得意な人もいます。業務で英語を使っている、私の周囲の人を見ているとよくわかります。Subordinate bilingual は、そんな方法でできあがっていくんですよね。

言語の起源を考える論文に「羽根の生えた天使」の話が書いてありました。突如としてヒトに言語器官ができたわけではないという例えです。動物学的には、天使の羽根は成り立たないという話。鳥の羽根は、人間の腕や動物の前足に相当します。動物は、羽根と腕のその両方を持つことはありません。動物には、新たな器官が生まれることはなくて、別のものが進化したり形を変えたりして「スキル化」しているだけだそうです。自分の手を見ながら考えるけど、水かきだって指の間の皮膚に相当するんだろうなと思います。長い進化の歴史の中でさえ、もう一本、指が生えてくるなんてことはありません。

幼い子供は、生まれ持った言語用の器官をじょうずに使ってふたつの言語を共存させます。まさしく “compound”。でも大人はそうは行きません。すでに言語の脳は母語で満タンだからです。「英語脳」なんていうもうひとつの脳はできてきません。指がもう一本生えてこないのと同じように。(「天使の羽根」の話は『「言語の発生と進化および多様性」西光義弘 神戸言語学論叢』にありました。)

だから、既存の脳の機能を利用して、既存の言語脳に織り交ぜて、習得して行くしかありません。そういうことなんですよね。その織り交ぜ方にはいくつかあって、学校文法がその代表。母語話者の頭の中で作られる規則性(文法)を、わかりやすい言い方で明示化する。Subordinate bilingual になろうとする人には、それが近道だと思うんです。その過程は、Compound bilingual のひとには、きっと理解しにくいことだと思うんです。Compound bilingual や Coordinate bilingual の先生が、大人に対して第二言語を教えるときには、気をつけなければいけないことだと思います。

ただ、規則性を明示化する方法は、学校文法だけではないと思います。それと併用すればうまく効く方法が、きっとあります。


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ミツイ直子

裕さん、シェアありがとうございます。これ、すごく大事なポイントだと思います。

というのも、多くの Compound bilingual の英語の先生には「英語が話せれば教えられる」と思っているタイプが多く、教授法などの基礎知識をもたない人も多く(そして分かりやすい教え方を学ぶ必要性を理解していないことが多いです。自分は Native Level もしくは Near-Native Level だと思っていますから)、結局「これは何て言うの?」という表面の表現(Surface Representation)の質疑応答のレッスンになりがちです。これは一対一のレッスンだと顕著に表れる傾向です。「ネイティブの先生、帰国子女の先生と一対一のレッスン」と聞くと聞こえは良いのですが、実はそれが遠回りな学習だったりするケースを沢山見てきました。

もちろん Subordinate bilingual の先生の傾向や弱点もあるので、どちらがどうという訳ではないのですが。結局幅広い知識を持っている先生というのは強いですね、という当たり前の話になりますね。

ちなみに Coordinate bilingual と Subordinate bilingual は区別しないこともあるのですが、この動画では別物として扱っていましたか?(まだ見れていません。Transcript もないので読めてもおらず)


 

ひろしさん2鈴木裕

ペルーから移住した家族を例に取っていて、下の子が Compound、上の子が Coordinate で、両親が Subordinate としていました。でも実際はきっと、年齢だけが要因ではないですね。

二人の子どもとともにアメリカに駐在した同僚の話をききました。下の子は小さいので、お友だちと話す内容が単純で、単なる行動や感じ方が話題となるために理解しやすくおぼえやすい。一方、上の子の学校でのお友だちとの会話の話題は、芸能のことや噂話なので、目に見えない話だし背景知識がないと理解できない。そんな違いもあると聞きました。そこにもヒントがあるように思っています。

日本に居ながら外国語を学ぶ場合、大量の(意味ある)インプットとアウトプットをすることは難しいので、開始年齢が早ければ Compound になるかと言えばそうではないと思います。特別な環境でない限りは、母語を使った置き換えは避けられないのではないかと思います。むしろ母語を上手に利用することを考える方が良い。


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ミツイ直子

なるほど、それは確かに区分けするべきですね。

ロス付近の駐在員家族をいくつも見てきましたが同じことが言えます。そして小学生、中学生くらいに渡米するお子さん(そして数年~5年くらいで帰国するパターン)が一番中途半端なバイリンガルになりやすいようです。日本語がしっかりしていない時期に英語環境に入り(日常生活に問題はなくとも小学生、中学生レベルですからね)、だからと言って中学、高校レベルの英語では「社会人としての英語」にも触れていないわけですから、そのレベルの英語だと将来英語に携わる仕事に就きたいと思った時、不十分だったりするのです。もちろん帰国後も英語の勉強を続ければいいのですが、子ども本人は「自分の日本語力と英語力への不自由さ」を感じているのにも関わらず、親がそれを分かってあげられないパターンが多いのが難しいところ。自分の子どもは完全なバイリンガルだと信じちゃうんですね。脳で起きていることなので表面的には何も分からないし、子どもの複雑な心境に気付いてあげられないんです。気付いていても認めたくない親も少なくないでしょうし。これ、実は結構深刻な問題で、子どものアイデンティティー形成にも関わってきてしまいます。

日本にいながらでは、どんなにインプットやアウトプットを増やしても「英語は外国語」です。それは English as a Foreign Language であり、「英語が二カ国語」の English as a Second Language にはなり得ません。赤ちゃん時代や幼児時代から英語をやっていても、それは「習い事」の域を絶対に越えられないし、日本にいながらにして International School に行くのなら少し状況は変わりますが、それでも「英語は二カ国語&外国語」の状況ですから、裕さんがおっしゃっているように、やっぱり Compound bilingual とは違う環境ですね。

アメリカのような英語圏に住んでいても両親が日本語を話し、家庭内言語が日本語の場合も Compound bilingual とは言い難いですね。どなたかのブログを読んだのですが、英語圏に暮らしている日本人カップルのお子さんが「ネイティブの方に “Honey” とか “Sweet pie” とか呼ばれることに違和感を感じて「私は Honey じゃない!(自分の名前)だ!」と言っていた」そうです。これは明らかにネイティブ脳でない証拠ですね。英語ネイティブの子どもは自分がそういう呼称で呼ばれることに対して疑問すら抱きませんので。

大人になってから英語を学ぶ「英語ネイティブはそうやって名前に関係のない相性で呼ぶことがある」と説明を受けた方が、ずっと自然に対応できることもあります。そう考えると大人になってからの英語学習も全然悪くないですよね。


 

会話

1)Compound bilingual、Coordinate bilingual、Subordinate bilingual。それぞれの定義を確認しておきましょう。

2)それぞれのタイプの先生は、どんなことを教えるのが得意だと思いますか?

3)それぞれのタイプの先生は、どんなことを教えるのが苦手で、そのためにどんな勉強をすることが必要だと思いますか?

4)あなたはどのタイプだと思いますか?

5)今の自分の教え方や知識を振り返り、自分の強みを再確認しましょう。

6)今の自分の教え方や知識を振り返り、強化すべきポイントや教える時に気を付けるべきポイントを再確認してください。

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