米国トップスクールに学ぶ、今日から授業に活かせる「生徒の思考力を高める教授法」

米国トップスクールに学ぶ、今日から授業に活かせる「生徒の思考力を高める教授法」

ミツイ直子

 

日本人の生徒に英語を教えていると感じるのが「思考力が弱い」ということです。「英会話が苦手です」という人の大半は、日本語でさえも自分の意見を言うのが得意ではなかったりします。今回、アメリカの大学や企業、そして小中高の教育現場で重要視されている教授法をご紹介しながら、生徒の思考力を伸ばすために知っておくべきことや思考力を伸ばす教育アプローチをご紹介していきます。

 

 

 


 

スタンフォード大学の「d.school」はご存じですか?

 

ここでは「テクノロジーやマーケットを出発地点とするのではなく、人のニーズを出発地点とした、実際の社会問題解決へのアプローチ思考法」であるDesign Thinkingという思考法が教えられています。

①Navigate Ambiguity、②Learn from Others、③Synthesize Information、④Experiment Rapidly、⑤Move between Concrete and Abstract、⑥Build and Craft Intentionally、⑦Communicate Deliberately、⑧Design your Design Work、という8つのコアを基盤に、人の現状を把握・分析・理解してアイディアを出し、プロトタイプを作って検証を繰り返し、問題解決や新商品の開発へと結びつけていきます。

 

 

 

例えば「お財布の新商品」を開発するとしたら、まずは①自分の理想のお財布をデザインします。そして、②パートナーにとって有益で意味のある物をデザインします(共感)。③問題をリフレーミングし、パートナーがどんなお財布を欲しがっているかを考え直します。この時、パートナー自身さえも自覚していないニーズや困っていることなんかをも見つけ出す努力をします。そして、④パートナーのニーズを満たす驚くべきアイディアを出し、実験(試作品)のために選択肢を作ります。⑤それに対するフィードバックをもらい、フィードバックを反映させた新しいアイディア(お財布)を再度出します。(例はこちらより引用させて頂いています。)

 

このように「今までこうだったから」というような過去の慣例やデータから生み出されるアイディアではなく、今目の前にいる人から生み出されるアイディアを大事にするのが、この新しいイノベーションの形なのです。

 


 

さて、これが「大学レベル」そして「企業のExecutiveレベル」で大事にされていることなのですが、今現在アメリカの小中高の教育現場で大事にされていることは何でしょうか?

今、アメリカの小中高の教育現場では4Cs(Communication、Collaboration、Critical Thinking、Creativity)が重要視されています。これら4つのスキルは21世紀に生きる子ども達に必要だと認識され、様々な科目でもこれらのスキルを伸ばすことを意識した教授法が実践されています。

 

Global Project Based Inquiry4Csを意識した教授法です。これは、ここ最近日本で注目を集め始めているアクティブラーニングの一歩先を行く教授法と言われ、アクティブラーニングの弱点をうまくカバーしている教授法なのです。生徒に主体性を持たせる授業を心掛けるというアクティブラーニングでは、多くの場合、① Inquiry、② Creativity、③ Relevanceという要素が失われがちですが、このProject Based Inquiryでは① Ask、② Investigate & Analyze、③ Synthesize & Reflect、④ Share、⑤ Reflect & Reviseという流れで授業を行っていきます。更に、このProject Based Inquiryを行う際に敢えてグローバルな題材を選んだり、実際に生徒にグローバルな関わりを持たせることで生徒の「グローバル社会での戦力」を高めることが非常に重要視されています。そういった要素を持つProject Based InquiryのことをGlobal Project Based Inquiryと呼ぶのです。

 

そしてアメリカの一部のトップスクールで「新しい算数の教え方」と支持されているCognitively Guided Instruction4Csを意識した教授法です。通常、算数は「正しい答え」に辿りつくことが目標とされますが、CGIでは「自分で問題解決法を導き出すこと」に焦点が当てられます。生徒の算数へのアプローチをもとに授業を進めていくというStudent-Centeredな教授法で、先生はFacilitatorとして①生徒を観察し、②生徒に質問を投げかけ、③生徒の問題解決法にフィードバックを与えていきます。

 

 

通常、各生徒は自分専用の「CGI Box」というものを持っています。CGI Boxの中にはサイコロや定規、おはじきのようなもの等、数を数えたりする時に利用できる道具がたくさん入っていて、生徒は与えられた問題を解くために、自分で①どの道具を使って、②どう問題解決をしていくのかを考えます。それを③先生や他の生徒に伝え、④先生からのフィードバックや他の生徒のアイディアを聞き、より良い問題解決法を一緒に探していくのです。

 

こちらはCGIを取り入れているアメリカの幼稚園の写真です。算数の授業の一環として「数を数える時の方法」を紹介しています。その内容は①指を使う、②物を使う、③サイコロを使う、④Tally Marks(英語版「正の字」)を使う、⑤言葉を使う、⑥数字を使う、⑦数式を使う、というように非常にシンプルなものですが、問題解決の方法を生徒に教え、その時々でどの手法を使うのかを「生徒自身に決めさせる」ことに焦点が当てられていることが分かります。

 

例えば我が家の長男がKindergartenにいた時、算数の授業中にこんな問題が出されました。

「3匹のクマがいるところに2匹のクマがきました。全部で何匹のクマがいるでしょうか?」

そこで長男は3つの青いブロックと2つの黄色いブロックを出して、全部のクマの数を数えました。結果「全部でクマが5匹います」となるのですが、先生の「褒めポイント」は彼が正しい答えに辿り着いたということではありません。先生の「褒めポイント」は、長男が青いブロックと黄色いブロックの使い分けをしたところ。長男が問題解決のために「最初からいるクマ」と「後から来たクマ」を表すブロックの色を別のもので表現したところが「褒めポイント」なのです。

 

Cognitively Guided Instructionという名前からも分かるように、生徒の頭の中で起きている思考プロセス自体に敬意を示すような「算数の教え方」なわけですが、こうして生徒の思考プロセスに敬意を示すということは生徒の思考プロセスを助長させる第一歩なのだと思います。

ただ、やみくもに生徒の思考プロセスを褒め称えれば良いわけではなく、この時の生徒の「思考プロセス」は①本人が意図的におこなっていること(論理的思考に基づいた判断であること)、②言葉で説明が出来て他の人にも理解してもらえること、③別の表現方法(思考を言語化する、絵で表現する等)で表すことが可能なこと、でなくてはならず、この3つが達成された時にこそ生徒は「よく考えたね」と褒められるべきなのではないかと思います。

 


 

①本人が意図的におこなっていること(論理的思考に基づいた判断であること)、②言葉で説明が出来て他の人にも理解してもらえること、③別の表現方法(思考を言語化する、絵で表現する等)で表すことが可能なこと。

これら3つの条件が満たされるワークをおこなうことで、生徒の思考力を伸ばしていくことが可能となると思います。

 

1)これら3つの条件が満たされる英語学習法といえばライティング。

そもそもライティングはPre-Write → Draft → Revise → Proof-Read → Publishという順番でおこなわれなくてはいけません。まずアイディアを出し(①の条件が満たされる)、自分の伝えたいことを言語化してアウトラインとしてまとめます(②と③の条件が満たされる)。それを下書きとして文に書きだしてから推敲を重ねていくわけですが(①、②、③の条件が満たされる)、まさに上記3つの条件が全てが満たされるのです。

 

事実、私は今まで数多くの生徒にライティングを教えてきましたが、きちんとこうした手順を踏んでライティング練習をこなすことで全ての生徒が思考力を伸ばすことが出来ています。

生徒の思考力を伸ばしたい先生方は、生徒にきちんとしたライティング練習をさせるようにしてください。(ライティングの教え方が分からないという方はこちらの教材をご覧ください。Lang Leaves Educationでは英語講師に対してもライティング講座をご提供しています。)

 

 

2)そして、アメリカのギフテッドスクールや一部のトップスクールで使われているThinking Mapsもお薦めです。

Thinking Mapはアメリカの教育機関が開発した「人間の思考プロセスをビジュアル化」する方法です。人間の思考プロセスは大まかに8つに分けることが出来るとの考えを基盤に、この図のように思考を明示化するための道具を授業で使うことができます。

 

例えば、ブレインストーミングをしたい時にはCircle MapやBubble Mapを使うことが出来ます。2つのものの相違点を見つけたい時にはDouble Bubble Mapを使うことが出来ます。ライティングをおこないたい時にはTree Mapを利用して書く内容をアウトライン化していくことも可能ですし、物事の性質を詳しくみていきたい場合にはBrace Mapを使って知っていることを整理していくことも可能です。Flow MapやMulti-Flow Mapはリーディングの内容整理に役立ちますし、同じくリーディングで同一のものを把握したい場合にはBridge Mapを使うことも可能です。

 

 

Thinking Mapを授業に取り入れるには同機関の指定する特別な講座と訓練を受けないといけないのですが、その効果は抜群で、アメリカの至る教育現場で「落ちこぼれの生徒」や「学習障害のある生徒」が科目を問わずに成績を伸ばしていることが報告されています。

この教授法の素晴らしいところは「生徒の思考プロセスを明示化させることで、生徒がどこでつまづいているのかが明確になるところ」です。ですから先生の、生徒へのフィードバックが的確になりますし、先生が生徒に対して不適切なアドヴァイスをすることもなくなり、結果として生徒の自信が不必要に削がれてしまうこともなくなります。事実、この教授法を取り入れた教育現場からの報告は生徒の成績向上だけに留まらず、「生徒が自分に自信を持てるようになった」「生徒が学ぶ喜びを知った」という声もあるそうです。

 

こちらは我が家の長男がKindergartenの時におこなったものです。

 

【Tree Map】

“I am a bucket filler.”という文の具体例として3つのポイントを挙げさせるために、Tree Mapを使っています。①I am helpful. ②I am friendly. ③I am kind. というアイディアが出されていますね。

ETAJ 会員の先生で英検3級のライティング試験対策としてTree Mapを使われている方もいらっしゃいます。昨年のConventionに参加後、Thinking Mapの利用を開始してくださったようで嬉しい限りです。

 

 

 

 

【Double Bubble Map】

これはRyan(長男)とLion(ライオン)の類似点と相違点を把握するために、Double Bubble Mapを使っています。共通点としては①Hair(Hearとなっていますが、恐らくHairのスペルミスですね)、②Eyes、③Living Thingsで、Ryan側には①Human、②Talk、③2 Legsとあり、Lion側には①Animal、②Roar、③4 Legsとあります。

 

 

 

【Reading の流れ確認のためにFlow Map】

こちらではReading MaterialのSequence(流れ)確認のためにFlow Mapを利用しています。こうすると「最初に何が起きて、次に何が起きたのか」という流れが視覚情報としても入ってきやすいので、読解力チェックにもなります。

また、Reading Comprehensionが弱いと感じるこういったアクティビティーをさせることで、「その生徒の弱いところは具体的にどこなのか?」ということを細かく確認していくことができます。例えばこの流れがつかめていないのであればTransition Wordsの理解が足りていないかもしれませんし、この流れがつかめていながらもReading Comprehensionが弱いのであれば、文を脳内でイメージ化して理解していく部分が弱いのかもしれません。

 


 

生徒の思考力を伸ばすとなると当然時間もかかりますが、生徒の将来を考えると絶対に外せない学習項目でもあります。皆さんが属する教育機関では使用すべきカリキュラム等が定められているかもしれませんが、その中でも生徒に少しでも「考えさせる」機会を増やしていけるよう、まずは私たち英語講師がシッカリとその方法を学んでおくようにしましょう。

 

今回ご紹介しましたThinking Mapについては、ETAJ会員はPrintablesのページよりダウンロードをして頂けます。

 

 

※こちらの記事は、2016年夏に開催されましたETAJ Conventionにてミツイ先生がプレゼンテーションにて話した内容をもとにしています。次回のETAJ Conventionは2018年の夏。よろしかったら皆さんもご参加ください。詳細はMonthly News Letterでお知らせいたします。

 

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