TESOL「実際に英語を教える時の各種ポイント」勉強会:セッションメモ
清水 健雄
4月21日に「TESOL:実際に英語を教える時の各種ポイントという題目で勉強会がおこなわれました。メインスピーカーを務めてくださったのは米国カリフォルニア州にお住まいのミツイ直子先生です。
当日お話していただいたこと全てが書かれているわけではありませんが、ほぼ網羅しています。細部まで細かな説明を聞きたい方は別途、単発セッションとしてミツイ先生の講座を受講していただけます。その際はミツイ先生まで直接ご連絡ください。
【Vocabulary】
特に、初心者にとって大事
聴いている限りListeningはできている
⇒ 足りないものは、聴いた音と脳内でその意味をリンクさせるための「語彙力」
⇒ Listeningが苦手なのは、語彙力(vocabulary)が足りないので脳内で音を認識できない
①Receptive / Productive Vocabulary Needsの違いを知る
Receptive Vocabulary Needs:「読んで分かる、聞いて分かる」語彙
Productive Vocabulary Needs:実際に使えるようにする語彙
全ての語彙を使える必要はない。
生徒さんに関しては、どちらなのかを常に先生が判断して、生徒さんに教えていくことが大事
②新しい単語を教えるときには関連単語を一緒に教える
新しい単語を暗記帳で覚えることは、脳の働きから言うと「効率的ではない」。
⇒ 関連する単語を一緒に教えることが大事(関連性をまとめると、脳に定着しやすい)。
マインドマップなどを使うとよい。
例)インターネット(internet):、「マウス(mouse)」「スマートフォン(smartpohne)」「タブレット(tablet)」など
「キーボード(keyboard)」:「タイプイン(type-in)「エンター(enter)」「削除(delete)」など
③単語の意味の教え方
単語の意味や訳だけを教えるだけではなく、英語での定義や例を持ち出して教える、あるいはイメージを使ったり実際のものを見せたりして教えるなど、説明の仕方の引き出しを多く用意しておく。
例)ハローキティ:ただ「キティ」と教えるのか、キティがどういうものであるかを説明して教えるのか(白いネコ、体重リンゴ3個分、など)
④文法を教える
動詞などを教える場合は、しっかり教えておくことが大事
名詞⇒動詞、動詞⇒形容詞など、変化する単語もあるので関連付けて教えるとよい
⑤Encourage Awareness of Collocation
collocation:単語同士の相性がよく、使われる頻度が多い組み合わせ(熟語など)
単語一つだけを教えるのではなく、実際は「この単語とこの単語の組み合わせで使われることが多い」というような説明をするとよい
⑥Connotative meaningを教える
connotative:ネイティブが持つイメージやニュアウンス。辞書には含まれない情報で、その文化や人に特化した感情。
例)sin(キリスト教の「罪」)。普段は “crime” などを使う
⑦単語のレジスターも教える
レジスター:formalityのこと。
普段使ってよい単語なのか、ビジネスシーンなどに使う単語なのか、どちらであるかを教えるとよい。また、「書き言葉」と「話言葉」の違いも教えること。
⑧単語の「接頭辞」「接尾辞」に触れ、Language Awarenessを高めてあげる
⑨和訳を使って教えるときの注意:
「和訳に縛られてしまう」ので注意(特にReading):理解したかしていないかの判断を、読んだ英文のそれぞれに適した日本語訳を思い浮かべて、その日本語訳をかいつまんで自分で何となく理解できていたら「理解した」と思ってしまう。
Direct translationばかりに頼った教え方をしていると、このような悪影響が出やすい
➉Learning Strategyを紹介する
生徒の学習は「生徒が主体」とならないといけない。
「学習の仕方(Learning strategy)」を教えることで、自分に合う方法を自分で学べる工夫を教えていく
【Pronunciation】
①発音記号を学ぶ
先生が発音記号を学ぶこと。先生が生徒に教えるときに細かく指導ができる。発音間違いに気づきやすく、ピンポイントで指導ができるようになる
②先生がチェックするのもいいが、録音して「自分の発音」を聴くのも気づきが多い
ネイティブと言っても国によっても、アメリカでも場所によって違う発音があるので、「日本語の発音」があってもいいので、自分の発音を聴きネイティブにどのように聴こえているのか知ることが大事。
また、様々なネイティブやノンネイティブの発音を聴くことも大事になってくる。
③回数を重ねること
集中よりも「長期的に」長い目で見て、回数を重ねて教えることが基本
④Phonemic Symbols
Phonemic Symbols:発音記号と同じようなもの(発音記号ほど細かくない)。生徒も読めるようにしておくとよい。
⑤日本語にない音を「気づいてもらう」
日本語にある発音でも、聞き分けの経験の回数を増やして音に敏感になってもらう
Minimal pair(一つの音だけが違う組み合わせ)はよく使われる手法
例)Sue:Two Soy:Toy Sew:Toe など
⑥Tell learners how target sounds are physically articulated
実際に口の中で舌がどのように動いて音になるのかを理解して、生徒に教える
ダイアグラムを使うよい(舌、呼吸、腹部など)。実践も大事だが、知識として教えるのも重要
⑦イントネーションを教える
英語は「イントネーション」で意味が変わるので、教えておくことが重要
イントネーションで、新しい情報なのか、すでに知っている情報なのかが分かる
⑧発音練習は、個別よりも文章の中で練習をできるようにする
単音よりもリズム・イントネーションの練習がよい
【Listening】
クラスの中で行なう理由:聴けるようにするだけでなく、聴けなかったときの場合にどうするかという方法を教える
①とにかく聴いてもらう
ただ聴いてもらうだけでなく、「なぜ聴くのか」「聴いて得た情報で何をするのか」など、聴くだけで終わらない目的を持たせる
②クラスを英語で行なう
集中力のある状態で英語に触れてもらう機会になる。ただし、全て英語で行なう必要はない。大事なところは日本語でもOK
③オーディオとビデオレコーディングを使用する
授業外でオーディオ教材を聴かせるのもいいが、「集中力」や「気分」が上がっているクラス内で聴かせるのもよい
④使う教材は意味があるものにする
生徒の頭を使って、考えさせながら聴かせる教材がよい
⑤聴くだけで終わらせるのではなく「タスク」を課す
例)伝言ゲーム、聴いて絵などを描く、ノートテイキング
⑥楽しむだけの時間を作る
特に初心者に対して、気を負わずにListeningできる時間も作る
⑦大事な情報だけを聴く練習をする
全てを聴く必要はないということを知ってもらう
例)余計なことを話している人のスピーチを教材にしてみる
回転ずしの例え:全てを取る必要はなく、好きなものだけを取ればよい
⑧様々な方言・アクセントを聴かせる
様々な国の人の英語を聴かせる
⑨学習者がどのようなListeningがやりたいのか確認したうえでアクティビティーを決める
日常会話?スピーチ?プレゼンテーション?
生徒に必要なListeningはどのようなものか把握して教えていく
➉Strategyを教える
聴いて終わりではなく、反応を示さなくてはいけない場面が多い。
⇒ 相槌、サインなどの反応をどのようにすればいいのか
⇒ 理解していない時にどのように反応するのか
【Reading】
量と質が大事
①テキストとは別に、全く違う文章を読ませる
⇒ 看板・ラベル・注意事項
Authenticテキスト:ネイティブが実生活に使っているもの(看板や注意事項など)
頭を使って読む経験をさせる
⇒ あえて、全く知らないニュースなどを読ませてみる
②「なぜ読むのか」という理由づけをするためのタスクを用意する
理解度がどこまでなのかをチェックするとき、どこまでその知識が使えるのか確認するのが重要
⇒ ただ答えるだけで終わりなのか、理解度を調べるために絵を描くなどのタスクを与えるのか、文章を書いてみる、プレゼンをさせるのか
③Readingで終わりでなく、要約やパラフレーズなどをさせる
Reading habitの構築を行なう
⇒ すぐに読み始めるのではなく、「タイトル」「全体のチェック(フォーマット、フォント)」「各章の長さ」などを確認する、全体像を把握してから始めることが大事
⇒ アメリカの学校では「本のフロントカバー(表紙)」から教え始める
④英文の構成を教える
⇒ Intro – Body – Conclusion
⇒ 一番大事な情報は、IntroとConclusion、そして各パラグラフの一番最初と最後にあることを伝えると、英文が読みやすくなる
⑤辞書の使い方を自分で考えて決められるようにする
⑥楽しむためにReadingをすることを教える
⇒ 自分の年齢に合わせる必要はない、レベルを落として(絵本など)始めることを教える
⇒ 緩やかにレベルを上げていく
【Speaking】
基本的には、「Speakingは教えられない」
⇒ 人は自動的な反応としてSpeakingをしている。
⇒ いかにして「自動的な反応」にするかの練習しかできない
①英語で授業をする
⇒ 時間を決めて英語だけの時間を設けるなどするとよい
②Group/Pairワーク
⇒ 小さなグループなら話しやすい、話す機会が増える
③できるだけ自発的に話す機会を作る
⇒ その場で考えなくてはいけない機会を設ける
④Guided Activityを使う
⇒ 細かい指示やヒントを与えて話させる
⑤ロールプレイで練習する
⑥タスクを与えて話させる
⇒ ソーシャルインターアクションを意識させて練習させる
⇒ 伝言ゲーム、Information Gap、
⑦「よさそう」だと思ったら、まずは自分で試してみる
⇒ 想像する英語発話量が得られない可能性もあるので、「まずは自分でやってみる」
⑧生徒さんの目的などを把握して考えていくことが大事
会話をするとしたら「流暢さ」が大事なので、文法にこだわりすぎる必要はない
⑨一人の人が長いセンテンスを話すようなものも練習させる。(自己紹介やStorytellingなど)
➉Speakingだけをさせることがないようにする
⇒ ReadingのあとにSpeakingをさせるなど、他の技能も含めるようにすること
⑪生徒の間違いを全て直す必要はない
⇒ どのくらい間違ているか、頻度はどのくらいか、などを考えて直していく
⇒ 間違いの指摘の仕方:例えば、過去時制を間違っていたら正しい時制を言ってあげて気づかせる
「間違ってもいい」という雰囲気を作る
【Writing】
「英文を書く以上」のスキルが必要、ネイティブもしっかり学ぶスキル
ただし、Writingスキルが英語圏ほど必要でない国もあることも考慮しておく
①いろいろなものを書く経験をさせる
⇒ 意見、経験、情報など
②生徒さんの専門分野がはっきりしている場合、生徒さんと一緒に「どのような文章が必要なのか」分析をする
③他の技能と合わせて教える
⇒ 実生活では他のスキルと一緒に使うことがほとんどだから
④いつも宿題にせず、授業中に書かせることが大事
⇒ 授業中に書く、お互いの書いたものをチェックするなどの経験をさせる
⑤Writingは一度で完成させなくてもよい
⇒ 下書きから、加筆修正を繰り返すことを教える
文章の例を見せる。最初のドラフトには間違いがたくさんあってもいい。最終版は、しっかりしたものを提出すること
⑥フィードバックをする
⇒ 文章に対する中身のフィードバックが大事
重要な間違いを選んで修正させる
⑦フィードバックをするときには、フィードバックのマークを決めておくとよい
⇒ 先生がマークをするだけで理解できるようにしておく
⇒ 時間の短縮
⇒ 生徒さんが自分で考えるようになる
⑧Writingは紙に残る、ということを上手く利用する
⇒ 最初と最後の比較ができる
⇒ 最初のものを自分で直させることもできる
【文法】
文法はしっかり最初に教えるべきか、それとも生徒さんが気づくのがいいのか?
⇒ どちらがいいかというのは分からない
⇒ 話す価値のあるトピックでもある、自分たちのポリシーに従う
①文法は間違えをしながら学ぶものであることを知っておく
②「知っておくべき文法」を自由に使えるチャンスを与える
⇒ 自分でSpeakingしたりWritingしたりするとき、知らない文法でもこちらからお手本を与えて使うチャンスを作る
⇒ 背伸びをする機会を作る
③最初に、その日に教える文法を明確にする(生徒に伝えないとしても明確にしておく)
⇒ 教えた文法を使う機会を与えること
④生徒の文法間違いは毎回全てを直すのではなく、適量に留める
⇒ どのくらい直すのか決めておく
⇒ 重要な文法はしっかり訂正してあげること
⑤文法のルールだけではなく、もう一歩先の話をする
⇒ 「なぜこのようになるのか」ということを聞く
⇒ 正しい回答は期待せず、一緒に考える時間を設ける
⇒ エピソード記憶として脳に残りやすくもなる
⑥大事な文法ポイントを生徒に気づかせる機会も設ける
⇒ 考えさせることが大事
⑦文法の説明方法を考える
⇒ 常にリサーチして、いかにシンプルに伝えるかを考える
⑧すでに知っている文法を自分で説明させる、お互いに教え合う機会を与える
⇒ 自分の言葉で表現する
⑨文法を気にせず、自由にさせる機会を設ける
⇒ バランスを見ながら、自由な表現をさせる
➉生徒のレベル以上のものを使って教える(背伸びをさせる)