英語の歌を使って英語を教える

英語の歌を使って英語を教える

ミツイ直子

 

profileMITSUI英語の授業で英語の歌を使う先生は多いのですが、その歌の使い方、ワンパターンになっていませんか?
ここでは「英語の歌を使って、どんなことを教えられるのか」ということをご紹介します。
面白い授業を行えるよう、皆さんが「何が教えられるか」を考えてみるきっかけになればと思います。

 

 

 

 


 

 

1)英語の歌を使って、発音を確認しましょう。

 

案1)歌詞カードに、聞こえたままにカタカナで歌詞を全部書き出させましょう。間違っていても構いません。とにかく耳を最大限に使ってもらいましょう。

→耳に届いた音に共通点はある?耳に届かなかった音はどうして届かなかったと思う?ここから英語の音のシステム(単語のストレス、強調すべき音と弱く発音すべき音、くっついて発音されるリンキングの音など)について説明しましょう。

※イマイチ英語の音のシステムの教え方に自信のない方はこれを機に学び直しておきましょう。 上條麻子先生の「なみのリズム」でも細かく紹介されています。

 

案2)一度、生徒に歌ってもらいましょう(その時、生徒の息継ぎの場所をメモしておくようにしてください)。その後、生徒にオリジナルの歌を聞かせて「歌手が息継ぎをしている場所」を歌詞カードに書き込ませましょう。(歌手のライブ動画があれば、それを見せて息継ぎをしている場所をチェックさせるのもお薦めですが、普通のCDや動画からでも息継ぎをする音が聞こえます)。それぞれの息継ぎの場所を書きこんだカード(生徒のものと歌手のもの)を比べます。

→おそらく生徒の息継ぎの場所は歌手のそれよりも多いはず。それは日本語を話す時と英語を話す時の呼吸法の違いにあります。英語を話す時は、日本語を話す時よりも大きく息を吸い込む必要があることを教えましょう。それを教えた後、(1)歌手の息継ぎの場所で読めるように練習、(2)走りながら、歌手の息継ぎの場所で読めるように練習、(3)その場でジャンプをしながら、歌手の息継ぎの場所で読めるように練習をすると、良い発声練習になりますし面白いですよ。

 

案3)同じ歌を幼児が歌っている動画を見つけましょう。全ての単語の発音がままならない幼児が歌えている箇所は幼児の耳に届きやすい箇所でもあります。生徒が聞こえた音と共通点はありますか?そこから何が見えてきますか?

→案1のように、ここから英語の音のシステムの説明に入ることも出来ます。生徒の年齢と同じくらいの年齢のネイティブが歌っている動画を見せるのも学習のモティベーションアップに繋がるのでお薦めです。

 

music22)英語の歌を使って、単語や熟語の意味、構文を確認しましょう。

 

案1)普通に先生が「この単語の意味はね」と説明していくと、どうしても生徒は「受け身」になりがち。生徒に勉強への自主性や積極性を持ってもらうためにも、出来るだけ「先生が説明する時間」を減らして「生徒に実践させる時間」を増やすようにしましょう。予め生徒に「自分で歌詞中の大事だと思う単語や熟語の意味を確認させるようにして、更にそこから歌詞の意味の解釈をさせる」ことをしましょう。授業では個々の解釈をプレゼンテーション形式で発表してもらったり、ペアワークやグループワークの一環としてお互いにシェアし合うことが出来ます。

→それぞれの生徒が発表している時に面白いポイントや大事なポイントは黒板に書き留め、全ての生徒の発表が終わった後に大事なポイントを確認しましょう。ペアワークやグループワークをさせたとしても、話し合った中で面白いと思ったことを、授業の最後にクラス全体に発表させるのがお薦めです。小さいグループ内だけで意見を交換し合って終わりにするのではなく、小さいグループで話し合ったことを大きいグループに発表するという流れは大切。ビジネスでもこの流れで仕事が進められていくことが多いですよね。ペアワークやグループワークをさせる時はこの最後のクラス全体への発表を大事にしましょう。

 

案2)洋書や英語の新聞記事よりもシンプルにまとめられている「歌詞」は、生徒さんの「日本語訳だけを意識して分かった気になっている」という癖を抜け出すきっかけを作ってあげるのに最適なコンテンツ。歌詞の説明をする際には(単なる説明になってしまわないことが大事です!)、それぞれの動詞や前置詞の運ぶイメージのイラストを用いて「英文→イメージ」のパターンを強化してあげましょう。

※英単語のイラスト化はすずきひろし先生の「イラストで広がる英語の世界シリーズ」や「ぴくとりあるシリーズ」がお薦めです。購入後、印刷をして授業に使えそうなイラストを切り貼りしたり、拡大コピーをしたり工夫をして授業に取り入れていってください。 前置詞編語源編語源・類語編

 

3)英語の歌を使って、リーディングスキルを伸ばしましょう。

 

案1)英語のオリジナルの歌詞と日本語訳の歌詞を比べましょう。

→意味やニュアンスにどんな違いがあるのかを見て、その結果それぞれの言語ではどんなイメージの歌となっているのかを確認していくのもお薦めです(例はこちら)。

 

案2)同じ単語が繰り返し使われているところや韻が踏まれているところにマークをさせましょう。

→どうして同じ単語が繰り返されているのか?どうして韻を踏んでいるのか?についてDiscussionをさせましょう。そこからRhetoric(The study of effective writing and speaking)の用法について紹介することが出来ます。また、他の歌詞やポエムなども一緒に読ませ、紹介したRhetoricが他の文献にてどう実際に使われているかを見せてあげるのもお薦め。Rhetoricはライティングやスピーキング(スピーチなど)の時に大切になってくるスキルですが、まずは認識が出来ないと正しく使うことは出来ません。文学などよりも取っつきやすい歌詞を使って、この少し難しいコンセプトを紹介してあげてください。

※歌詞では特にRepetitionやRhymingが多様されますし、これらはスピーチなどでも重要となってくる部分です。歌詞と同じようにRepetitionやRhymingが多様されているのは絵本。色んなものを教材として使ってみてください。

 

案3)歌詞の内容を確認する時は、単語の示す表面上の意味(日本語訳の確認)だけでなく(Deeper Thinkingをさせるよう導き)そこから分かる深い意味までをも考えましょう。

→深い意味までをも考える癖をつけると、生徒が自分で英文を読む時にも同じようにDeeper Thinkingを用いたリーディングを行えるようになります。 ※歌詞の内容や文法などから作詞者の意図を読み取っても良いですし、歌詞の本来の意味を説明(もしくは予想)しているサイト等を参考にしても良いですね。

 

4)英語の歌を使って、ライティングスキルを伸ばしましょう。

 

案1)歌詞をParaphraseさせたりSummarizeさせたりしましょう。

→歌詞の内容をきちんと理解出来ていないとできないタスクです。

 

案2)歌詞の一部(もしくは全体)を書き替えさせましょう。レベルの高い生徒には字数制限をしたり、韻を踏むことを意識させたりしてみましょう。

→案1よりもレベルが高くなります(類語辞典を沢山活用したり、同じことの言いかえを何度も行う練習になります)。 案3)歌や歌詞に対して感想や自分の意見を書かせましょう。

→きちんとEssayのフォーマットに従った文章を書かせましょう。自分の意見について書く練習にもなります。「何でも良いから感想を」というと難しいかもしれないので、いくつかの質問を用意して、その中から答えたい質問を選ばせるのもお薦めですし歌手に関することや歌の時代背景についてリサーチもさせて本格的なEssayを書かせるのもお薦めです。

 

music45)英語の歌を使って、リスニングスキルを伸ばしましょう。

 

案1)歌詞を朗読したものを聞かせてノートを取らせましょう(もしくはディクテーションをさせる)。

→授業で何度か取り上げた歌の歌詞を使ってノートを取らせたりディクテーションをさせると、当然ながらそのハードルが下がり、生徒にとってやりやすくなります(生徒の心理的負担を軽減することが出来、本来の「英語を聞き取る」ということにフォーカスすることが出来ます。もちろん英語学習の最終目的は「どんな状態でも聞き取れる」ということを目指すことだとは思うのですが、初心者や中級者にはこうして「英語以外の部分」の負担を減らしてあげた授業を展開するのがお薦めです)。ノートを取らせる時は予めNote Taking用のマークや教えたりやノートを取る時のコツなんかもきちんと教えてからアクティビティーをさせてみてください。

 

案2)歌詞の一部をわざと変えて歌ったり読んだりして、何が変えられているのかあてるのをゲーム形式で行うのもお薦めです。元も歌詞を良く覚えていないと出来ないゲームですが、歌詞を覚えるということを宿題にしておけば授業内でスムーズにゲームが行えるはずです。

→単語の認識練習になります。また、代わりに使われている単語の意味、その単語を使うことで歌詞のメッセージが変わってしまうかどうかについて話し合ったりすることで、どんどん展開していくことが可能です。(生徒に面白いと思ってもらうために、わざと変な単語(でもRhymeしているもの)などを使うのがお薦めです。その授業前に教えた新しい単語などをさり気なく含むのもお薦めです。)

 

案3)文章をいくつか聞かせ、取り扱っている歌詞と同じメッセージを持つものを選ばせましょう。

→前もって生徒には歌詞のメッセージをきちんと理解してもらう必要がありますが、新しい文章を聞き、そのメッセージは何かな?と考えさせる練習になります。文章を短くさえすれば初心者にも行えるゲームです。

 

6)英語の歌を使って、スピーキング力を伸ばしましょう。

 

案1)Impromptu Speech をさせましょう。

→歌詞からキーワードを3つほど選び、その3つのキーワードに関連したスピーチを3分間させましょう。その時はきちんとスピーチの構成(イントロダクション、ボディー、コンクル―ジョン)を意識させましょう。(前もってスピーチの構成(ライティングの構成と同じ)を教えておく必要があります。)

※スピーチの形態に自信のない方はこれを機に学び直しておきましょう。スピーチの形態はライティングの形態と同じなので、Lang Leaves Education のライティング教材がお薦めです。

 

案2)歌手や歌詞についてプレゼンテーションやスピーチをさせましょう。

→プレゼンテーションをする練習になります。プレゼンテーションの構成に沿ったものを用意させましょう。Visual aidも用意させたりして本格的に準備させるのがお薦めです。

 

案3)歌詞に関するQuestions and Answersをさせましょう。

→2人がペアになり、1人が質問役、1人が答える役になります。質問役の生徒が歌詞に沿った質問をして、答える役の生徒が歌詞に沿った答えを答えます。(例:質問役 “Where is the singer right now?” 答える役 “She’s on the top of the mountain.”、質問役 ”How is the weather?” 答える役 “It’s snowing.”、質問役 “How do you know it’s snowing?” 答える役 “The mountain is described as white and it’s said we can’t see the singer’s footprints. So we can assume the snow is covering the footprints as it keeps coming down.“)質問を考えるのが難しそうなら前もって先生が質問を用意しておきましょう。授業内で教えたい構文がある場合はここで質問に使うのがお薦めです。

 

案4)その歌の宣伝を録画するようなイメージで、1分間の宣伝スピーチをさせましょう。

→1分間、その歌に関して宣伝をしてもらいます。そのために (1) 歌詞の理解、(2) 歌や歌手に関する背景知識の理解、(3) スピーチ用に英文を書く、(4) 英文を朗読するのではなく視聴者に話しかけているように話す練習をする、(5) 録画をする、という作業が必要となります。一部分は授業でおこない、一部分は宿題にさせるなど臨機応変に対応してみてください。最後には実際に録画をしたものをクラス全体でリビューし合うのもお薦めです(改善点などを伝え合う)。

 

music37)英語の歌を使って、思考力や批判的思考力を伸ばしましょう。

 

案1)歌詞を読み、そのAudience、Messageは何かを考えさせましょう。そしてそのAudienceに伝えたいメッセージが伝わっているのか?という単語や構文の表現方法などのEffectivenessを考えさせましょう。

→与えられたものを単に楽しむだけではなく、その目的やTarget Audienceを考えられるようになります。 案2)その歌のMusic Videoを見せ、分析させましょう。

→誰が出演している?出演者のイメージは?どんな行動をしている?その行動がもたらすイメージは?どこで撮影している?そこで撮影するには誰の許可が必要?許可を取るために申請費は必要だと思う?どんな小物が映っている?どうしてだと思う?全体でいくらくらい製作費がかかっていると思う?その歌手の売り上げ状況は?その歌手の出したいイメージは? 先生が前もって質問を考え、生徒達にDiscussionをさせましょう。また、意図されていないAudienceに同じ歌を届けるとしたら(例:Teen対象の歌をElderly対象にさせる)どういうMusic Videoを作成すれば良いと思うか等、いろんなことを考えさせるきっかけにしましょう。このプロセスの中で、あくまでも「日本の常識」に捉われない考え方をしていくことが大事です。アメリカ人はどういう反応をするか?それはカナダ人にとってどういう意味を持つのか?Music Videoの作られた国の文化や視聴者が日本人だけではないというポイントにも注意を払いましょう。

 


 

英語の歌を授業に取り入れる方法は、もちろんここでご紹介した方法に限定されません。皆さんも沢山の「英語の歌、導入法」を考えていってください。

ただ、考えて頂きたいのは「なぜ英語の歌を授業で使うのか?」ということ。その理由は様々でしょうが、私が思うに「生徒の緊張感を下げてくれる」「難しいコンテンツをもAccessibleにしてくれる」というところが特に大事かと思います。

もちろん「生徒には1曲くらい英語で歌えるようにしてほしい」という想いがある先生もいるかと思いますが、それだけでは勿体ない!英語の歌を使うことで、こんなにも生徒の世界を広げて生徒の英語力を高めることが出来るわけですから、「楽しいだけで良い」と制限せずに教える内容のレベルも生徒への期待値もどんどん上げていきましょう。

 

最後に英語の歌を選ぶ時のポイントをいくつかご紹介します。

 

※英語の歌を選ぶ時のポイント。

 

ポイント1)上手く聞こえる歌を選ぶ?

日本人が普通に英語の歌を歌っても上手に聞こえません。それは日本語と英語の特性に理由があります。日本語を母国語とする日本社会は多元論思想が基本。「Noは必ずしもNoではない」というように、曖昧なものに美を見出したり、曖昧だからこそ繊細できめ細やかな気持ちを表現出来るとします。一方、ほとんどがキリスト教社会の英語圏では基本的に二元論思想。曖昧さを極力排除したがり、All or nothing、Yes or No、善か悪かのラインをハッキリと付けたがるのです。

ですから曖昧さを売りとする日本語を話すイメージで英語の歌を歌おうとしても、どこか力強さが感じられないのです。カラオケで英語の歌を歌おうとしても「あれ?何かが違う?自分は歌を歌うのが苦手でないのに、何か違和感が拭えない」と感じてしまう人は、この「力強さ」がポイント。そういう時には呼吸量を増やしたり、歌詞をもっとよく感じてAggressiveな雰囲気を出そうとしながら歌うのが大事です。ちなみに、バラード曲はそこまで力強さを必要としませんから、日本人が歌ってもそれほどボロが出ません。生徒に「楽しさ」を知ってもらいたいのならバラード曲を選ぶのが無難ですし、呼吸法なども含め「英語らしさ」を知ってもらいたいのならバラード曲でないものを選ぶのがお薦めです。

 

ポイント2)英語学習のモティベーションを高める歌を選ぶ?

普段の生活で英語を使う機会が少ない国内の日本人英語学習者への英語授業の際は「デュエット曲」を使用するのがお薦めです。自分以外の誰か歌を歌う過程で「英語でのやりとり」を体験できるからです。授業内で歌を歌うことに同じだけ時間をかけるのなら、クラス全体で1つの曲を合唱させるよりも、ペアワーク状態でデュエット曲をそれぞれ歌わせた方が高揚感も英語を頑張ろうという気持ちもより高まります。

 

ポイント3)童謡は誰にとっても良い!

幼児に英語を教えている先生は童謡を使うことが多いのでしょうが、実は童謡はどんな生徒にとっても良い教材となります。それは単語が簡単で歌の長さも短いからではなく、その言語を第一言語とする子ども達が学ぶべきことが凝縮されているからです。例えばRhymingのような言葉遊び、それからその言語を話す人達が大事にしている文化に関連した単語が多く使われています(事実、英語の童謡は「Farming系」「キリスト教系」のものが多いですよね。こういう童謡の傾向を日本の童謡の傾向と比べるのも面白いと思います)。童謡は「英語を感覚として楽しむ」ことに適しているんです。

 

 

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