「多読」勉強会:報告レポート
ミツイ直子
2016年12月3日にZoomにてETAJ会員による「多読」の勉強会がおこなわれました。
まず、北海道「ハッチポッチイングリッシュ」のひとみ先生が、普段どのようにして「多読」を英語の授業に導入しているのかということをお話してくださいました。ひとみ先生はセルム児童英語研究会で使われているB.B.カードという教材を使われているので、そちらで使っている「文法・品詞のマーク」を、生徒に読ませる文にも使うことで、生徒の文法へのAwarenessを高めているとお話してくださいました。ひとみ先生はクラス内で読み聞かせをすることも、生徒に英語の詩を暗唱させることもあるようです。
「多読」の講座にも積極的に参加され、その重要性をも認識されているそうですが、「多読のための、相当数の洋書や英語の絵本を用意するための資金とスペースを持つことの大変さ」も日々実感されているそうです。過去に英語の絵本が読めるサイト等も利用されたそうですが、やはり紙の本で読む大切さも感じられているようで、今でyは積極的に図書館を利用したりしているようです。
一言で「多読」といっても、その定義は様々なようです。「多読」といっても実際に何冊読ませれば良いのか、その時の先生の役割は何なのか、文法は教えるべきなのか、教えるとしたらどの程度教えるべきなのか、読ませる本はどう選ぶべきなのか…など。
その中で「多読というと絵本を薦める人が多い」と「多読=絵本」とすることに関して疑問視する声も出たのですが、これに関してETAJ理事の中井先生が面白い考察を丁寧にシェアしてくださったので、こちらでもご紹介させて頂きます。
「自分の子どもに絵本を読み聞かせすることが多いのですが、実は絵本は馬鹿にできなくて、読む度にネイティヴの子どもが英語を学んでいく過程が見えて面白いです。意外に知らない単語も出てきます。
自分たちが 、こんなにシンプルで、哀愁があり、生き生きした言い回しを何故学校では学ばなかったんだろうとか、と考えさせられます。確かに子どもが学ぶ言い回しなので、大人が学ぶと実用性が無さそうに思われますが、お母さんが子どもに話しかける言い回しや、大人が赤ちゃん言葉を使った冗談混じりの会話を多少キャッチできるようにはなりました。
絵本を読みながら、身の回りの生活に結びつかない実用性の低い英語を如何に学んできたかを痛感します。
「多読=絵本」という方程式を掲げてしまうのかどうかとは思いますが、「これくらいすぐに読めるだろう」と思っていた絵本が意外に難しく(発音やリズムも)、ネイティヴの見本無しには読めないものも沢山ありました。
ちなみに、幼稚園児が見るようなディズニーチャンネルからも絵本同様に沢山学べることがあります。NHKのチャロ(もう放送は終わりましたが)を見てるより、こっちを放送した方がよっぽど実用的で自然な英語が学べるのになあとは思いました。」
それに伴い、ETAJ代表理事のミツイ先生も、こんな意見をお伝えしていました。
「おそらく多読に絵本を提唱する人は、そこの感覚の部分から入って「ネイティブの世界観を築く、それを体感する」ことにも重きをおくのだと思います。
私も大人の人に絵本を薦めることが多いのですが、それは多くの日本人が、洋書を読む時に知ってる単語の日本語対訳を掻い摘んで理解した気になっているから、です。もっと英語を体感として染み込ませていくようなリーディング体験をすることで伸びる部分というのは大きいです。言語センスも養われます。中井先生のように長い留学経験があった人でさえもそうですもんね。私も同じだし、絵本に触れるノンネイティヴは決まって同じことを言います。
でも語感のいい人は、そういう学びを改めて教えなくても既に実践できていたりするのも事実です。そういう人には絵本は必ずしも必要ではなく、もう少しレベルの高いものから開始してもOKかと。それでも、例えばネイティブ小学生レベルとか英検三級レベルの読み物とかが良いと思います。それは文字を対訳的な意味だけで理解することを避けるため。それさえもができている人でしたら、簡単な書物で経験を十分に積まずとも、自分の精神年齢レベルの洋書を楽しんでいくこと、で大丈夫だと思います。
語彙数が多ければ対訳的な意味の取り方でも、最初から自分の精神年齢にあった洋書を楽しむこともできますが、その際は(よっぽど学習者側に言語センスやらがない限り。そしてこの層はごく少数だと思います)前者が感じている世界は味わえないとは思うのですが。。。後者の目的が洋書の内容理解だけでしたら(知識を得る、とか)それも問題なくOKなわけですね。」
そして、他の先生方も実際に他の英語の先生がされている「多読」の方法をいくつかシェアしてくださり、どんな形で多読を行うにしろ、生徒のレベルを的確に判断することの大切さを参加者全員が感じることとなりました。
他にもいろいろな話題が出ましたが、生徒が「多読」として読んだ話の内容をどう確認していくべきか?ということもそのうちの一つです。(1)内容に沿った絵を描かせる、(2)内容のアウトラインを書かせる、(3)Wh- Questions(Who, When, Where, What, Why and Howの質問)をする、(4)英作文を書かせる、という案が出ました。また、敢えて答えがないような質問をして(本の文章の中に答えがなく、読者が推考しなくてはいけないような質問)ディスカッションをさせるのも良さそうだという意見もありました。
最後に、普段TOEIC対策の英語の授業を教えられている中井先生が「TOEICのスコアアップに直結するリーディングアプローチ」をシェアしてくださり、「逆に、そこから良い多読に繋げていくヒントもありそうだ」というところで、一時間の勉強会が終わりました。
短い時間の中でも、参加者の英語講師がそれぞれ異なる年齢・タイプ・目的をもった生徒を教えているからこそ、広い視野が持てる学びの場となりました。それぞれの年齢の生徒に「多読」のためにお薦めしたい本に関しては、FacebookのETAJグループにて、有志の先生方が情報をシェアしてくださっています。良ければそちらもご覧ください。
参加者の皆さま、今回は本当にありがとうございました。